定年後の暮らし方は団塊世代とくくられる人の数だけある。六十歳でそれからの人生をどう考え、どんな生き方、暮らし方を選択するかで、六十一歳からの人生はまったく違ったものになる。さて、この先、自分たち夫婦はどこでどう暮らしていくのか。ちょっと考えただけでも、建て替え、リフォーム、マンションへの転居、子供たちとの同居、Uターン、海外移住など選択肢はいくらでもある。もっともむずかしいのは、夫婦の意思統一である。
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私はこれまで定年後の夫婦のための家も数多く設計してきた。そのたびに痛感させられるのは、長年、生活をともにしてきたご夫婦のホンネが、実際にはなんとバラバラかということである。たとえば、今ある家を老後のために建て替える。そこまではすんなり決まっても、そこから先がたいへんだ。家づくりに関して建て主夫婦の意見が分かれるのは、もちろん定年後にかぎった話ではない。三十代の若夫婦が家を建てるとしよう。それまでは狭いアパートで肩を寄せ合い、仲良く暮らしていた夫婦が、突然、私の目の前で熾烈な言い争いを始めるのである。たとえば、妻は「子供たちにそれぞれの部屋を与えたい」と言う。夫は「小学生に個室など必要ない」と言う。妻が「勉強部屋がなければ受験のときに困る」と言い返す。夫は「それよりオレの書斎が必要だ」と言い始める。三十代、四十代の夫婦が家づくりでモメる原因は、まず「子供部屋」。続いて「自分の居場所」なのである。